「生きる」ということ


私が、9歳の時。

今と同じ寒い冬のことだった。
ビュービューと音を立てて風が吹いていた。
にぎやかな商店街の中からいい匂いがした。
これは・・・オムライス?
とてもとても美味しそうなぷるんぷるんの卵にアツアツのソースをかけたような想像がした。
その匂いをたどっていくと、『にんまり喫茶店』という看板があった。
私は、ランドセルを背負ったまま中に入っていった。
すると、「これはこれは、小さな可愛いお客様だこと!」と優しそうなおばあちゃんが出迎えてくれた。
「おばあちゃん、この匂い何??」と好奇心豊富な私は、入って即質問してしまっていた。
おばあちゃんはびっくりしたように「うふふ。当店おすすめふか卵のオムライスよ」とまた笑顔で答えてくれた。
「そうなんだ。想像とぴったり当たった!」
と喜んでいる私に、「食べてみる?」と聞いてくれた。
「うん!」という私。
その頃は、食べたい一心だった。
今でも思い出すと恥ずかしい。
「ちょっとここに座って待っててね~」とカウンターの席に案内してくれた。
私は、ワクワクでまだかまだかと待っていた。
「おまたせー」とエプロンをしたおばあちゃんが、想像と同じオムライスを私の前にもってきてくれた。
それも、食べやすいサイズにカットしてくれていた。
私は、そのオムライスに食らいついていた。
おばあちゃんは「慌てたら喉につっかえるわよ。うふふふ」と笑いながら横に座った。
そんなことはお構いなしの私は、もぐもぐを口の周りにソースをつけてホッペが落ちそうになっていた。
「ごちそうさまでした。」と私はやっと食べ終わった。
おばあちゃんは笑顔で私の口の周りのソースをあったかいおしぼりで優しくふいてくれた。
「ありがとう。ところでこれ、いくらですか?」と財布を取り出していると、「あなたの笑顔で十分よ。」と私が全財産を差し出しても受け取ってくれなかった。
その時の私の全財産はたったの400円だった。
それ以来私は、毎日のようにその喫茶店に通った。
もちろん、そのオムライスを食べに・・・。