ふう、小さなため息が彼女から聞こえる。

オレも必死なんだから、この緊張でガチガチな体も見逃してほしい。


「……ったく、そんな下向いてたら勿体ないわ」

 呆れたようにオレの隣を歩く彼女は、ライトより眩しかった。

こっちは恥ずかしくて後悔におしつぶされそうだっていうのに。


 そんな想いを払拭するように、彼女の温かい手がオレの手を包み込んできた。


「ほーら、笑いなさいよ、“ヒュウガ アオイ”ちゃん?」

 例の彼女の小悪魔笑顔。

それに呆れつつも、いつもの彼女であることに安心しようとしたときだった。


「はいは……い?」


 その腹立たしいほどの笑顔に騙されそうだった。


「な、なんで……それを…っ」

 震える声で立ちすくみそうなオレの手を、彼女は強引に引っ張っていく。


 だって、誰にもいってない。

オレのフルネームが──日向(ヒュウガ)葵、ということを。


 書けば、大体ヒマワリ=向日葵と間違わられ、あげくに女と勘違いされ。

だから会社では、昔のツテもあったせいで、全て統一して『葵』と名乗ってきた。


 こんなコンプレックスは昔からで、萌も知ってること。

だけど、萌は嫌がることをするようなやつじゃない。


 一体、誰が?

そう探ったときに、はっと気づく。


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