「まったく!前代未聞よ!!」

 不機嫌そうなデザイナーはオレを睨んでくるものの、決して辞めさせようとはしなかった。

周りのスタッフも笑ってはいるものの、仕事はきちんとこなし、オレをいっぱしの“女”に変えて見せたのだ。


「葵さん、遥姫さん、スタンバイお願いします!」

 彼の気合の入った一言に、上機嫌の彼女が「はーい」と答えたのだった。


 舞台の袖に準備すると、すでに仕事を終えたモデルの女性たちがそこで見守っていた。

さすがにオレの正体まではバレてないようだったが、さっきまで見なかった姿に、誰コノヒト?という怪訝そうな驚きを隠せていない。


 反対側の袖では、彼女と一際逞しくなった彼が楽しそうに話をしていた。

一度だけ彼女と視線があうと、優しげな瞳がそこにあった。


『では、今回の目玉!素人ながらも、プロ顔負けの遥姫ちゃん!
──と、飛び込みで、そのご友人のヒマワリちゃんで~すっ』

 アナウンスにあわせて、上座から登場する彼女と息を合わせて下座から舞台の中央に向かう。

 案内の台詞に場内も一瞬戸惑ったようだが、オレたちの姿をみて再び盛り上がる。


 痛いほどの照明にあたりながら、後悔だけが降り積もる。

 どうか、バレませんように!

必死に願うように俯いていた。


「ってか、なんでヒマワリなのよ」

 長いステージを彼女の隣で歩く。
とにかく歩くスピードを合わせることだけが、オレにできることだった。

 フラッシュに合わせるように微笑む彼女とは違って、なるべくそれの死角になるようにオレは立ち振る舞っていた。


「う、うるさいなー!なんでもいいだろ……っ」

 ひきつった笑顔の下で交わされる言葉の攻防。

 ちょうどステージの中間地点で、オレたちの立ち位置を回転しながら交代する場所がきた。