「ぎゃははははははっ」

 部屋一杯に響かせる彼女の笑い声。

他にも、くすくすと塞ぎきれていない音が、辺りに散乱している。


 ……──これも人助け。


「く、苦し……っ、お腹痛ーいっ!!」

 お腹を抱えて、予定通り白いワンピースを着た彼女。

メイクも台無しに目じりに涙まで貯めてやがる。


 ひ、人、助け……っ!


 後悔と怒りが複雑に交じり合うのはオレの仏心。

 やっぱやるんじゃなかった──なんて、今更言えない。


 オレの肩にあり余るほどの丈のくるくる巻かれた黒髪。

 言っておくが、魔法なんてものは使えるわけないし、時間だってとめることはできない。

ショーだって、すでにクライマックスを迎えているわけで日時なんか変更できない。


 そして……。

オレの体には、彼女と同じデザインの黒バージョンのフワフワとしたワンピースのような下着のようなパジャマ。

この肩幅や骨格を隠すため、彼女の怪我のカモフラージュも兼ねて黒のストール。



 想像できるだろうか。

三十路手前のいい年した男が、成り行きとはいえ。


「お、お腹痛いよ~!あ、あおっ、葵が女装だって~!!」

 本当に腰まで辛そうに、顔を真っ赤にして笑う彼女が憎らしい。


 一体、誰のためにやってるんだ!