「くぉ~ら、オトメぇぇえ!!」

 先ほどまでオレの反応を見ながらニヤニヤしていた彼が、一瞬にして背筋がピンと伸びる。

その変わり様といったら、月とスッポン。いや、むしろすっぽんに失礼なくらいだ。

 声は廊下の奥からで、思わず目をやると同じく彼と同じ黒いスタッフTシャツをきた女性が腰に手を当てているのがうっすら見えた。

廊下に響く叫びは、幾度と目の前のスッポン君の携帯から聞こえていたソレで、おかげでいつの間にか聞き慣れてしまっていた。


「じゃあ、葵さん、またあとで!」

 その怒声に反応するかのようにトンボ返り。

「え、ちょ……っ、早乙女サンっ!?」

 ついでに控え室までの道を知りたかったのだが…。

すでに怒っている女性の元へ走り去り、頭をペコペコ下げている。


 そんな姿を遠めに見ていると、どうにもかける言葉を失う。

とりあえず彼を見送り、自力で当初の目的地に向かうことにした。







 ──そうそう。 どうしてこうなったか、だが……。

お察しの通り、我らがプリンセスのショーの日だ。


 依頼者・早乙女龍之介さん(二十六歳)のスカウトで、彼女が下着のモデルをやることになった。

オレが反対したにもかかわらず。


 それをわざわざご丁寧に彼女から携帯電話に連絡があった。


.