見せられたページにはあと残り1名分のスペースを残している。

「べ、べべ別に『理想恋愛屋』って書いて解るんだからいいじゃないですか!」

 それを受け取らずにぷいっと顔を背けると、早乙女さんが呆れてため息をついていた。

「葵さん、コドモじゃないんだから……」

 やれやれ、と肩をすくめている。

女が怖いといってるヤツに言われるのも悔しい。だが、オレにだって嫌なものの一つや二つあるんだ!

「ワガママ言ってないで!遥姫さんだってきちんと書いてくれてるんですから!」

 そういってページを滑らせると、オレの前に突き出してくる。

そこには言う通り、彼女の名前が若干クセのある字体で書かれている。


「高校生にできて社長ができない、なんてことあっていいんですか?」

 彼はうまくオレのプライドを利用している。


 なぜだ。 そこまで頭が回るなら、女性なんて怖くないはずだろう!


 と、叫びたい気持ちはぐっとこらえる。

勿論、それはオトナとして。


 黙って睨むオレに「ほら!!」といわんばかりに、彼はノートを押し付けてくる。

 幸いにも、最終ページには一人分のスペース。

しぶしぶ受け取りざっと書き記すと、パタンッと閉じて突っ返す。

 しかしオレの思いとは裏腹に彼はそのノートを開き始める。

「ちょ、何してんですか!」

 慌ててノートを彼の手の上から無理やり閉じる。

「何って、確認ですよ。……まさか誤魔化したんですかぁ?」

 彼のため息交じりの呆れ声。

「ちゃ、ちゃんと書きましたっ!」


 オレのこの動揺っぷり、どうよ?

さすがに自分でも怪しいと思う。


 じっと彼を見つめて、呼吸を整える。

声を潜めて、半ば脅すように静かに口を開く。

「いいか!これはオレと早乙女サンの秘密だからな!!」

 そしてゆっくりと強制的に閉じていたノートから手を引いた──……