だけど、彼女は予想に反して夕日を吸い込むように髪を揺らして、不満そうに見上げてきた。

ケンカでも売られると思ってたから拍子抜けだ。


「……じゃあねっ」

 兄すらも残して、彼女は身を翻し人ごみに埋もれていく。

オレは呆然と見ているしかできなかった。


「まったく……なんだってんだ…」

 がっくしと肩の荷をおろすと、ちょこんと萌が隣にやって来た。

ふふふ、となぜか意地悪そうに感じる笑い声をあげる。


「意地っ張りもそこそこにしないと、逃げられちゃうわよ?」

「な、なんのことだよ!?」

 よくわからない忠告に思わず聞き返したオレに、萌は笑うだけ。


「じゃあね」

 と柔らかい髪を揺らして兄の元へと走っていってしまった。

するとその萌と楽しそうに微笑みあった兄は、オレに向かって大きく手を振ってきた。


「葵さーん、がんばって~」

 爽やかに大きめの声で言うもんだから、広場中の視線を集めてしまう。

「な、な、なにがですかっ!」

 ムキになってプイっと背を向けて事務所へと戻る。


 みんなして笑いやがって…っ!!


 歩きなれた道をズンズンと足早に進んだ。