「萌を、モデルにってこと……?」

 こっそり隠れながらコクコクと頷く彼に、開いた口がふさがらない。


「早乙女さん、それはいくらなんでも……」

「そんなのダメに決まってるでしょう?」


 言いかけたオレにピシャリと遮られる。

 いたって明るい口調なのに、その本質を知ってしまったオレとしては背中が嫌な汗で一杯だ。


「ねえ、葵さん?」

 ゆっくり振り向くと、そこには相変わらず有無を言わせない極上の営業スマイルが出迎える。

 オレが恐れる人の一人だ。


「た、匠さん!……もももちろん、ですよっ」

 引きつってるであろう顔も、この際見逃してくれ。

「ダメ、ですか……」

 がっくりと肩を落とす彼に、オレもなんだかいたたまれない。

 その瞬間、また奇妙な音楽が流れたかと思うと、彼はごそごそと尻のポケットから携帯電話を取り出した。

「はい、早乙女で──」

『オトメ、まだみつかんないの!?サボってんじゃないでしょうね!』

 さっき事務所で聞いた女性の声が、離れてるオレにも届く。

電話に向かってペコペコ頭を下げている彼をみるのも切ない。


 そんな時、背後からは当然の疑問が問いかけられた。

「葵さん、新しい仕事でも始めたんですか?」

「えっ、いや、そういうわけでもないんですが…」

 兄の言葉にたじろぐ。


 そうだよな、本来ならばこんなこと仕事の範疇じゃないはずなんだよ。


「……はい、はい、すみません。はい、明日には……」

 ガンガンと弾丸のように響いた電話が切られて、明らかにどよんとした空気の彼。

 かける言葉も見つからず、オレの右手が中を彷徨った。


その瞬間だ。