そこにいたのは、萌だ。

「どうしたの?こんなところで」

 きょとんとみつめる萌はオレたちに近づいてくる。

「まあ、これも仕事のうち?」

 チラリと彼に目をやると、少し挙動不審になりかけている。


そうだった、女性恐怖症。彼にとっては萌も見知らぬ女なわけだ。


「そうなの?大変ね?」

 くすりと笑い、長いまつげが揺れる。

「萌こそどうして?」

「あたしは匠さんとの待ち合わせよ」

 相変わらず幸せそうに笑う萌。今となっては、モトカノだったことさえ夢のようだ。


「あ、葵さん…っ!」

 彼の声と共に、スーツの裾がクイクイと弱々しく引っ張られる。

どうやら今まで小さな子供のようにオレの背中に隠れるようにしていたらしい。

でも、そんな彼の表情は怯えているといった印象を受けなかった。


「……なんですか?」

 彼の依頼を受けたとはいえ、萌もオレの立派なお客様の一人だ。ないがしろになんてできるわけがない。


 某兄妹が恐ろしいからな。


「こ、この方は……?」

 ちらりと目をやっては俯く、を繰り返す彼に、オレはそうか、と萌を紹介した。

「ああ、すみません、こちらは友人の上原萌さん」

「どうもはじめまして」

 オレが紹介するのにタイミング合わせて萌は頭をペコリと下げた。


「あの、葵さん!彼女はダメですか!?」


 キラリと光るような彼の瞳に、オレは一瞬言葉を失う。



 だ、ダメって…つまり……。