どうやら一方的に通話は途切れたようで、彼は口をぱくぱくさせながらゆっくり携帯を閉じた。

しかし、そんな落ち込んでる彼の様子なんて、気にしている場合ではない。


「早乙女サン……?明日までなんて聞いてないですけど?」

「えっ、そうでしたっけ?」

 とぼけるなー!


「無理です!」

「ま、待ってくださいよ、葵さん!」

 思わず席を立ったオレにすがるように足元にやってきて、オレの足にしがみついてくる。

「ムリムリムリ!!明日までなんて、そんなの絶対無理!」

「頼めるの葵さんしかいないんですよぉおおおっ!」

 背広を引っ張る彼に、オレのイケナイお人よしの虫がにょきにょき成長する。


 商売するには、この虫を駆除しなきゃいけない。

そんなこと、十分わかってる……。


「大体、女性恐怖症が一日やそこらで治るわけないじゃないですかっ」


 今にも泣きそうな早乙女さんは、まるで捨てられる子犬のよう。



 オレの睨みV.S.潤んだ瞳



 どちらが勝つかなんて、目に見えている。



 オレが……!



 ……オレってば…。



「……手伝いますけど、保障はしないですよ?」




 目を輝かせた彼とは対照的に、はあ、と己の情けなさと一緒にため息をはき捨てた。