「女に慣れたいってこと?」

「まあ、できればいつかは結婚して、マイホームで子供と……」

 ほんのり頬を染めながら後頭部をかいていた。

 夢を語る彼は嬉しそうだったけど、それは所詮彼の夢だ。


「わかった、わかった」

 とりあえずこの妄想癖やら言葉のアヤを直してくれるといいんだけどね。



 どうやらとんでもない人が、客にきてしまったようだ。


とはいっても、実際、女性恐怖症を克服なんてできるんだろうか?


「そもそも、なんでそんなに女性が怖いんですか?」

「……僕の家は姉二人に、妹一人、おまけに母は後妻で僕の一回り年上の若い母なんです」

 どこか遠くを見る彼に、とある童話を思い出す。

 この設定、嫌な予感がしなくもない。

「気の強い人たちで……、食事、洗濯、掃除。全部僕一人でやってるんです。どうにか就職したこの仕事も、先輩はキッツイ女性だし……」


 いつか馬車のお迎えが彼に来てくれることを祈るよ。


 そんな時、彼の上着からどこかできいたことのある音が流れる。


 ……なんだっけな、この民族っぽい音。


 悩んでるオレに構わず、すみません、と一言添えて彼は胸ポケットから携帯を取り出した。


「早乙女で──」

『オトメーっ!何やってんのよ!』

 キーンとした女性特有の声が、離れてるオレにも届く。

「せ、先輩っ」

 見られているわけではないのに、なぜかしゃきんと彼の背筋が伸びる。

『モデルの件、どうなってんの!?明日までだってわかってんの!?』

「は、はいぃぃっ!」

『ウチの会社の面子がかかってんだから、いい加減なことしたら許さないわよ!』