返す言葉も見つからない。

 チラリと向かい側に座る萌をみると、このやりとりに驚いて入るものの、まだ沈んだ感じが見受けられた。

 反論できないオレは、ゆっくり彼女の腕を解放した。


「あーっ、急がなきゃ!バカ葵のせいで時間なくなっちゃう!」

 バカ葵だと?……こンの女ぁーっ!!

パタパタと扉の向こうに消えた彼女に奥歯をギリリと噛んだ。


「遥姫さんと随分仲いいのね」

 可笑しそうに言う萌の言葉に、飲みかけたコーヒーをオレは思わずブッと噴出してしまった。


「葵っ!?」

 あちち、と溢してしまったコーヒーを慌てて台布巾で拭う。

「なにいってんだ……、彼女ともあれ以来だよ」

「え……?」

 萌の戸惑いの声に顔をあげると、ぱっちりな瞳がさらに開いてるから、心底驚いてるようだ。


 そんなに驚くことなのか?


「あたしには──無理かな……」

 小さな声だったけど、オレは聞き逃さなかった。


「……葵を選べばよかったのかなぁ?」

 しおれてしまった花のように肩を落とす萌。

そんなこと今更言われたって、オレにはどうすることもできない。


「ど、どうしたんだよ」

 動揺してるのは自分でもわかってたけど、一時の気の迷いに決まってる。

あんなに、嬉しそうに笑っていたんだから。