「おい、そろそろ…」

 出てってくれよ。

そういいかけたのに、オレは声に出せなかった。


 なんと、背を向けた彼女は、クスンと肩を揺らして顔を伏せている。


「な、ななな、なに!?」

「あたしのこと、汚しただけなの……?」


 一体何のことだ!


「ちょっと、冗談やめろよ……っ」

 それでも一向に顔をあげない彼女に、オレはあせるばかり。


 なだめようと背中をさすろうかとも思ったが、あんなに“変態屋”と罵られた後だ。

伸びかけた手は、怯えた亀のように引っ込む。


「あ、葵……?」

 戸惑う萌の声に、オレは最悪の状況になってしまっていることに気づく。


「ち、違うんだ、萌!…えっと、急にコイツが泣き出して……っ」

 我ながらこの年齢にしてこの慌てようは情けない。

が、ちっとも理由なんてわかるわけなかった。


「と、とにかく、泣き止んでくれよおっ」

 彼女に向き直って、こっそりと頼み込む。


「……ここに、いてもいい…?」


 グズリ、とまるで小さな子供のような言葉に、うっ、と胸を締め付けられる。


 答えられないでいると、更に嗚咽を上げ始めるもんだから、

「わ、わかった!いていいに決まってるだろ!?」

「ほんと!?」


 見上げてきた彼女の瞳には、雫一つ見当たらなかった。