「恋愛屋さん、どこ行くんです?」

 彼が引き止めるのにも答えず、オレは重い扉を押してゆっくりと部屋を出る。


 隣の会場ではゲームでもやっているのか、キャッキャと騒がしい声が漏れている。

挨拶もろくに出来なかったことを心の中で詫びつつ、クロークで荷物を受け取ってホテルを後にした。


 外は、チリチリと肌を刺激するくらい冷たい風が吹く。

そういやテレビでお天気お姉さんは「今夜から寒波がやってくるでしょう」なんていっていたっけ。


コートに手を突っ込み、ポケットの中でぎゅっと拳を握った。



「……はぁ、さみぃ…」

 オトメくん、ちゃんとオカルト少女をリードしてやれてるかな。

 秋さん、絡み酒してなきゃいいけど。



 そんなことを考えつつ、自分の不甲斐なさを改めて痛感した。




 仕事も完遂できず、彼女を救ってやることも出来ず……


 頼りないオレだけど。




 持っていたもの全て。


手のひらから零れ落ちるように……





 ────静かに消えてなくなった。

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