もう諦めるしかないってのに、彼女の言葉で、逃げ出すわけにも行かなくなった。


 なぁにが、『ヘマこくな』だ。

もう今のオレには何も出来ず、後の祭りだというのに。


 逃げ出したい衝動に駆られつつ、半分ヤケになったオレは銀のワゴンを静かに押す。


「どうぞ」


 彼ほど綺麗な動作ではないが、フタを開いてテーブルに置くとそっと離れる。

先ほどのとは打って変わった皿の上の状態に、彼女が思わず覗き込み、つられるようにご両親まで席を立つ始末。

 そして、ご両親は先ほどの感嘆の声とは反対に、ため息が交じっていたのはオレにだって理解できた。


 オレが出した無色透明の深めのガラス皿は、冷気で白く曇っていたのに少しだけ溶けかけていた。

けれども、まるで貧相なオレらしく、シンプルのバニラアイスがあるだけだ。


 はっきり言って天地の差があるのは歴然だ。

ご両親の反応は、オレだって頷ける。


それでも彼女は顔色一つ変えず、静かに瞼を閉じて手を合わせる。



「いただきます」


 直視できなくて俯いていたのに、彼女の声が耳から離れない。

心臓がはちきれそうに走り出しているのは、少しでも期待していたからだろうか。



「……うん、おいしい…」


 一口食べたのか、静かに零れた彼女の感想。

そしてすぐさまスプーンが寂しそうにカチンと皿に当たる音がした。



 それで、勝敗は決まったのだ。


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