そそくさと屋敷に消える彼女を見送り発車させるオレも、随分慣れたものだ。

 こんな高級住宅街なんて滅多に来ないため、いつももの珍しげにゆっくり運転をしながら考える。


 いつまでこんなことをすればよいのだろうか。

これで納得すればいいけれど、できないから毎日のように彼もまた彼女を迎えに来ているのだと思う。


 信号が赤に変わりゆっくりと停車させ、ふう、と最近多くなったため息を零したときだった。


 トントン、とガラスを叩かれる。

助手席のウインドウをゆっくり開けてその主を伺ってみる。


「あの、どうかしましたか?」

「ちょいと失礼」

 そういって手が伸びたかと思うと、ドアのロックが勝手に外され助手席に乗り込んでくる。


「え、あっ、ちょっと……」

 戸惑う俺をあざ笑うかのように、その人は目を細める。


 深い皺が貫禄を見せるが、顔立ちははっきりとしていてかなり男前の老人だ。


「一ノ瀬家まで乗っけていってくれんか」


 いきなりなんなんだ。


「あの、すぐそこ……ですけど?」

 指差すと、その老紳士は持っていた杖をガツンと手の甲に当ててきた。


「いいってぇえっ!!」

「まあ、いいから出しィや、兄ちゃん」

 まるでヤクザのような口調とこの強引さにどことなく背筋が凍る。