その翌日だった。

いつもより早めに出勤して、いつもどおりパソコンを起動させ、コートをハンガーにかける。

エアコンはつけたばかりだったから、しばらくの間は温かいコーヒーでも飲んで暖を取ろうと茶棚の前に立ったときだ。


「──ぁぁあああ……」

 隙間から流れこむ外気に身震いしていると、扉の外から激しい駆けてくるような足音。


 ああ、彼女だ。


「ぅおおおおおいいーっ!」

 これまた今までで一番乱雑に開け放たれた扉は、想定内。

血柱がはしるような目には怒気が込められ、勇み足でやってきた。


「おはよう」

 来ると思ってたさ。


「お兄ちゃんになに言ったのよ!」

「何も言ってないけど?」

 そう、オレは何も口にしていない。 オレは、な。


「じゃあなんでお兄ちゃんがトラのこと知ってるわけ!?」

「オレじゃなくて匠さんに聞けよ、ったく。……まあ、匠さんに彼から電話がきたっていってたけどさ」

 そこまでいうと、彼女も言葉を詰まらせていた。

相当切羽詰ったような表情に、どこか珍しいものを見ている気がして、少し可笑しかった。


「──そう、そういうこと。お兄ちゃんに聞いたのね?」

「……なにを?」

 しらばっくれてみるけど、彼女にはお見通しなのだろう。

彼女はふう、とため息をつくと、落ち着き払ったようにドサリと落ちるようにソファに座る。

ゆっくり足を組み替えて、オレに視線だけをよこした。



「いいわ、そっちがその気ならこっちにも考えがある」