どこかですすり泣く声が聞こえてくる。

 耳を澄まして、少しずつその音に近づく。

砂を踏む音をなるべく消した。


 そこはオレの愛車のトランク側だった。

小さなマフラーの隣に、腕に顔を沈めてうずくまっていた。


「ここにいたのか。ほら、いくぞ」

 立ち上がらせようと身を屈めて腕をつかんだ。

すると、こいつときたら人の顔すら見ずにその手を振り払う。


「まいったな……」

 長い前髪をかきあげて、肩を落とす。

 オレになにができるってわけじゃないけど、どうしても放っておけなくて彼女の隣に座り込んだ。


 まだぐすぐすと泣き止まない彼女の肩に腕を回す。

なだめるように、できるだけ優しくゆっくり叩いた。


ため息をひとつだけ置いて、オレは真っ青な空を見上げる。



「萌ってさ、オレのモトカノなんだよねぇ」

 一瞬、ぴたりと鼻をすする音がやんだ。

隣を見ないように目の前の竹林に視線をずらしたから、彼女がどんな顔をしているかなんて分からない。

それでも続けた。

「ある時、萌は自分のじーさんのせいで周りから冷たい目で見られるようになったんだ。
だけどな、付き合ってるオレまでそう思われるのがいやだ、って。

……それで、離れた」

 足元の小さな小石を拾い、ぎゅっと握り締めた。


 思い出すのと、話すのは全然違かった。

言葉にすれば、その分リアルに当時がよみがえる。


「お前と鉢合わせた日、別れてから初めて会ったんだ」

「……え?」

 少しかすれた声で聞き返してくる。


 言ってたらなんだかオレまで泣けそうだ。

それだけで、って思うとマジ情けない。

「約束もしてなかったから、運命じゃないかって一瞬思った。
けど──……」

 今ドキ運命なんて信じないか。

そんな自嘲はそっとしまう。