「あなたたちの舞台、とっても楽しそうに見ていたわ」

「……も、もしかして…」

 笑顔の園長に対し、次第に引きつる彼女の表情。

あの彼女が嫌悪を示すなんて、オレとしてはかなり珍しいものを見ている。


 誰だろう?なんてのん気に考えていると、控え室の扉が再び開いた。


「あれ、秋さん、忘れ物?」

 ぴょこぴょことやってきた秋さんが、オレの問いに答えず頬をほんのりピンクに染めて口をパクパクさせる。


「ねえねえ、そこにイイオトコがいてねっ」

 本命オレじゃなかったっけ、なんてジト目でみるものの、そのはしゃぎっぷりは尋常じゃなく。


「カワイイ系のオトコなんだけどぉ~。アタシ同伴さぼっちゃおうかな、なんて思っちゃうくらい」

 ペロっと舌を出す姿は可愛らしいのだが、如何せん、オトコだしね。

興奮気味の秋さんの後ろで、扉が開く。


「ああ、ここですか」

 低めの優しそうな声が響き、それにぱあっと輝く秋さんの顔。


「……げ。」

 どうやらそのウワサの人らしいが、すぐ隣にいたあの彼女からもれたため息にどういうことなのか聞こうと思ったときだった。



 そしてゆっくりと顔をあげると、“彼”は現れた。


 身長も高くスーツも海外ブランドのものだと一目でわかった。

軽くパーマのかかった髪も柔らかく揺れ、上品にすら見える出で立ち。

年齢で言うと、彼女と同じくらいだろうか。それなのに、彼女の兄とはまた違う色気も感じる。

オレへのイヤミか、なんてのは頭からパタっと消えた。


 園長は笑顔で出迎える。

「久しぶりね、トラちゃん」


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