切なそうな瞳で語り終わるのを見て、オレは口を開いた。

「……追いかけてきます」

 いてもたってもいられず、消え去った方に向かう。


「……お願いします…」

 兄の小さな声は、もう聞こえていなかった。



「あの、アホ娘!」

 歯がゆさが、滴るようにゆっくりと身体を支配した。


 嬉しそうに兄にしがみつく姿も、他の女に対するむき出しの嫉妬も。

全ては、溢れんばかりの『スキ』の気持ち。





 ……──彼女と兄の真実。


「僕と遥姫、血は繋がってないんです」

 萌もはっとしたように、兄を見つめる。

確かに顔、性格や思考も似ているってところは感じられなかった。

「よくある話です、親同士の再婚でね。
……遥姫とは一回りも違うけど、小さいときから仲がよかったんです」

 いわゆる幼馴染みたいなものか。

「遥姫が僕のコトを慕っていてくれたのはわかってました。
でも、遥姫がそういう想いに気づいたころには、もう兄妹だったんです」

 俯いて池のふちぎりぎりまで歩くその背中は、やっぱり哀しそうだった。

 もしかしたら、兄も彼女を想っていたのかもしれない。

それは報われない想いと知りながら……大人のふりして、家族になって。


 いつか言っていた、彼女の言葉。


『そんじょそこらの女になんか渡せない』


 そういうのを全部ひっくるめて、彼女はいつも最大限の告白をしていたんだ。



「ったく、どこいったんだよ……」

 汗ばんだシャツがじっとりと肌につくようだ。

 庭はもう1周したけど見当たらないず、砂利が続く駐車場にまできてしまっていた。

 あきらめて料亭に戻ろうとしたときだった。

「……っく、ふえっ…」