時は待ってくれない中で、ジリジリと焼き付けるようなライトのせいもあるのか、額には汗が滲み出すのを感じ、とにかく思い当たる言葉を探ってみる。


「ロミエット、キミは可愛いな」

 そういってひょい、と舞台に飛び上がったジュリオの言動は台本にはなかったはずだ。

オレは突然の彼女のセリフにきょとんとしてしまった。

が、すぐに気づいた。柄にもなく彼女がオレをアドリブでカバーしてくれているのだ。


「ああ、僕もだよ。キミに会えただけで嬉しいんだ」

 そういっておずおずとするオレに近づいてくる……のだったが。


 舞台にペタペタと張ってある立ち位置を示すカラーテープの一部がめくれていて、オレも気をつけてはいた。

が、彼女の台本にない行動により、本来通るはずのない道筋を通ったがために足元を奪われたのだ。


「うっわ……」

 小さな声だったため、客席にまでは届いていないが、オレの目の前でよろけた彼女が目を見開いてよろめく。

それは過去に何度か見た光景で、オレの体もピクリと条件反射で動いてしまう。


「ちょ……っ!!」

 慌ててその腕を引っ張り上げ、なんとか抱きとめる。

 お互い顔を見合わせ冷や汗ダラダラ。

そんな中、おお、と客席から零れる安堵のため息に、どうにか劇をつなぎとめたことに成功したことを実感。


「じゅ、ジュリオ、無事でよかったわ……」

 などといって寄り添ってみる。

 本当に彼女はよく高いところから落ちるな、なんて感心している場合ではない。

気づいた秋さんがうまく機転を利かせてくれたのか、そのまま舞台は暗転。

そそくさと袖へとはけたオレは、ようやく台本を再び確認することが出来た。