──そんなこんなで、今更逃げるわけにもいかず、ここは腹をくくって舞台に出るしかなく。

かといって、こんなオレでもまだ羞恥心とかプライドは健在なわけで。


「…あ、あら、ごきげんよう……?」

 やっぱり恥ずかしい!

震える声を振り絞ってみるものの、やはり違和感たっぷりだ。

俯くオレに、容赦なく「おじちゃーん、がんばれ~!」と励ましの声が届くもんだから、やっぱりバレていたことに恥の追い討ちがかかる。


「ジュ……ロミエット、パーティに来てくれてありがとう!」

 いい間違えしたのは友人役のオトメくん。しっかりしてくれよ!

気さくな友人役だが、果たして彼にやりきることが可能なのかは定かではない。


そして……

「やあやあ、みんな、ごきげんよう!今日は誕生パーティにお招きありがとう!」

 颯爽と現れたのは、オシャレな帽子を目深にかぶりオトメくんよりも少し身なりがよさそうな格好をした彼女だ。

声もすこし低めに出しているのか、少年に見えなくもないのが不思議だ。



 物語の舞台は現代の上層階級の子供たち。今日はオトメくん扮する役の友人の誕生パーティだ。

そこでロミオとジュリエット──もとい、ジュリオとロミエットは出逢う。


「お、お姉さんも来ているから、呼んで来るわ」

 慣れない言葉遣いに、抜けない恥じらい。

やはり冷ややかな観客の視線から逃げるように、そそくさと袖に引っ込む。


 袖で「なりきりなさい!」と小言を言う秋さんを横目にこっそり客席を覗いてみる。

すると、後ろのほうではあるが、都の姿もしっかり見つけられ、オレは気を引き締めなおした。


 そう、何も恥をさらしに来たわけではない、あの小生意気な少女を納得させるためでもあるのだ。

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