──萌が倒れこみ、彼女がとった行動。

「配役変更よ。葵をジュリエットにするわ」

 あたかも当然のように且つ揺るがない決断力で言い放つ。


「……は、はあぁっ!?」

 一瞬の沈黙を置いて叫ぶオレ、さすがにオトメクンや秋さんも相当驚いていた。


「もちろんあたしだって覚えてはいるけど、単なる劇じゃつまんないし」

 イヤイヤイヤイヤ!単なる劇でいいんだよ!!

オレのツッコミ虚しく、ほくそえむ彼女の本音だろう。


「葵なら一応はジュリエットのセリフは覚えているでしょ?」

 とってつけたようなフォローは建前だ。

心の叫びは受け取ってくれるわけもないが、そこで救ってくれたのがオトメくんだった。


「そうですよ、遥姫さん。あの時はスタイリストたちもいたしなんとか対応できたけど、今回は衣装も直せないじゃないですかっ」


 よくいった、オトメくん!

あの時、という言葉に反応した秋さんはこの際無視して、さすがの彼女も、うっ、と喉を詰まらせた瞬間だった。


「あ、なんならアタシが、直してあげよっか?」

 裁縫得意なのよねぇ、と無邪気に提案する秋さんがとにかく恨めしかった。

「ナイス、秋!」

 オレの視線をひょいと交わして、秋サンとお呼びなさい、とウィンクしてみせる。

本来なら、彼女がジュリエットをすれば万事解決するはずの問題なのに。


「まあ、それなら安心ですねぇ~」

 と、オレの救世主はあっさり納得した。

この圧倒的不利な状況を覆す術は、未だオレは身につけていなくて。


「……ま、マジかよ……」

 途方もない脱力感にさいなまれていた。



.