「これから、『理想演劇団』による劇を始めます」

 当初から予定していた通り、ナレーション担当の先生が子供たちを先導するように始める。

先生たちは仕事もあるだろうからと、セリフが少なかったり台本を読みつつできる役回りである。

完成度に関してはオレたち次第というところだった。


「さあ、気を引き締めていくわよ」

 袖では彼女が指揮を取り、場をぐっと盛り上げる。


「こんなに緊張するのはショー以来ですよ~」

「オトメクン、なにそれ初耳だけど?今度はアタシも出してね」

 そんな和気藹々とした空気の中、戸惑うのは二名。


「え、あ、あの……」

 ええ、そうですよ、園長。あなたは正しいのです。

ちょっとこの三人がオカシイのです。


 オレはふるふると打ち震える。

感極まっているわけではない、屈辱に耐えているのだ。


そんな様子を見かねてか、彼女は満足そうに近づいて肩を叩いてきた。



「ほら、頼むわよ。“ロミエット”」



 ナレーションが部屋中に響き渡る。

「劇……え?ほんとに?……『ジュリオとロミエット』…?」

 その戸惑いっぷりが客席を暖めるかのように、笑い声が湧き上がる。

それと同時に、オレはクルクルと腰まで伸びた巻き髪のウィッグをなびかせ、締め付ける淡いピンク色の萌が着ていた衣装を揺らす。

ゴクリ、とつばを飲み込み一歩ずつ進み、次第に明るい舞台へと照らし出されていった。



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