理想恋愛屋

 いままで必要な本棚とかしか置いてなかったのだけど、今日に限っては大きなダンボールがいくつも積まれている。

「なにいってんの、これから運ぶんだぜ?」

 ちょっとゲンナリしてしまうが、これも大切な借り物だから無碍にするわけには行かない。

「量はともかく、さすが葵社長ですね~。やはり顔が広くていらっしゃる!」

 まったく、この太鼓もちは!

と、思うものの、褒められて嬉しくないはずがない。


 顧客の中に、たまたま舞台関係の仕事をしている人がいたから、クチを聞いて使えそうな衣装、小道具、セットなどを借りることが出来たのだ。

これは本当に、オレならではの仕事だとは思う。

 ため息を零すと同時に明るく扉をあけたのは、あのテカテカのドレスではなく、あまり見ないカジュアルな格好をした秋さんだ。

「おっまたせ~!葵ちゃん、セリフ大丈夫~?」

 開口一番、意地悪そうにわき腹をつついてくる秋さんは本当にイタイところ突く。

「…た、多分……」

 緊張を思い出し、手にイヤな汗がにじみ出るのがわかる。

「じゃあ~、アタシと緊張忘れられるコトしない?」

 相変わらずの分厚いアイメイクで色仕掛けしてくるが、大いに迷惑だ。

身体を添わせてながら詰め寄る秋さんを、身をよじりながらなんとか交わす。


「さー、行くわよ!」

 意気揚々と事務所の扉を開けたのは、制服のままだったが、やはりメガホン片手にやってきた彼女。

オレとしては第二の凶器が目の前にぶら下がっているようにしか見えないのだが。


「さっさと葵の車に荷物積んで、明日のために最終リハーサルをするわよ!」

 兎にも角にも、やるからには全力でやるつもり。

……だったのだが。



 まあ、彼女だけならいつものことさ。

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