理想恋愛屋

「ジュリエットの母役は園長先生に、ナレーションはもうひとりの先生にやってもらうわ」

 こうして彼女の脚本に描かれたキャストは決まったのだが、どうにも腑に落ちない。

「……で、お前はなにすんだよ?」


 そう、彼女の名前が一つも出ないのだ。

こんな明るい舞台、出ないわけがないと思っていたのに。


「ああ、今回あたしは“監督”よ、ビシビシいくから覚悟してね」

 ふふっ、とそれはそれは楽しそうに笑うもんだから、オレはやっぱり胸騒ぎを感じずに入られなかった。


 それから2週間ほど経ち、雲ひとつなく晴れ渡ったとある木曜日の午後。

どこか落ち着かなくて、仕事もできず、オレはそわそわしていた。


「ええと、次のセリフは……」

 彼女お手製の台本をボロボロになるまで何度も何度も読み返した。

いくら子供相手とはいえ、いろんな思いの詰まった劇を成功させたかった。


「それにしても、意外だよな」

 彼女の作った台本は、オレはすごいと思った。

劇は『ロミオとジュリエット』と謳ってはいるが、子供向けにアレンジがされている。

設定も原作に類似しているものの、複雑な時代背景や小難しい社会的地位をうまく省いていると感じた。

オレもあまりシェイクスピアには詳しくはないが、悲劇で終わるというイメージがつよいのに、彼女の作った台本はハッピーエンドで終わる。


彼女らしいといえば、そうなのかもしれないが。


「遅くなりました~」

 カバンを肩から提げて慌ててやってきたのはオトメくん。

朝から取材にいき、その足でこの事務所にやってくるといっていた。

「それにしても、すごいダンボールの量ですねぇ」

 オトメくんがグルリと事務所内を見渡す。