最後のオレが乗車を控えているにもかかわらず、目の前のオトメくんが扉の前で足を止める。

 息を切らせてやってきたのは、幽霊屋敷でであった少年。


「確か、琥珀…?」

 琥珀はバスに片足を乗りかけたオトメくんのシャツをつかんでいた。


「ど、どうしたんですか?」

 肩で息をしながら、琥珀はただ来た道を指差す。

そこには遅いけれども、必死に走ってくる人影。


 ゆっくりと木陰から現れたその姿に、ピタリとオトメくんが固まってしまった。


「瑠璃さん……」

 フラフラになりながらも、彼の想い人はオトメくんを見つめる。


「……はぁっ、はぁっ、りゅ、龍之介……だったな…」

 息もきれぎれなのに、それでも必死にオトメくんをみつめ、色素の薄い長髪がそのたびに揺れていた。


「お前は…っ、私が好きなのだろう…?」

「そう、ですけど……」

 整ってきた呼吸に、ふうっと胸を撫でた少女。

そのままが軽やかに一歩近づいたと同時に、すっと踵を浮かせた。


 つぼらな唇は、免疫ゼロのオトメくんの唇へと重ねられる。


 一体、ナニが起きたのか。

目の前にある突然のラブシーンに頭がついていかなかったのは、多分オレだけじゃなかった。


「龍之介、いつでも口説きにこい……」


 そういって薄幸の少女…いやオカルト少女は、今まで見たことがないくらい優しく笑った。


「…待ってるぞ」

 少女の小さな呟きは、バスの運転手のクラクションでかき消されてしまった。

だけどオレにはしっかり届いていた。