完璧におちょくられている。

さすがに秋さん相手でも、オレがむっとしてにらみ返した。


 でも。



「『スキ』の反対は『キライ』じゃないのよ?」


 呆然としたオレをみて柔らかく微笑むと「じゃあね」と踵を返して、部屋に戻っていく。



 ついさっき出たばかりなのに、無意識に部屋に戻って布団をかぶってしまっていた。


 秋さんの言葉の真意を理解することができなくて。

おかげでちょっと……いや、かなり寝坊してしまい、彼女にチクチク嫌味を言われることになったのはいうまでもない。







「じゃぁ忘れ物ないな?」


 おいしい朝ごはんも終えて、バタバタと慌てたように荷物をまとめたオレたち。

とうとうチェックアウトの時間を迎え、この空気の綺麗な温泉旅館を後にしなければならない。


 丁寧にお辞儀をした仲居さんに背を向けて、入り口に停まっている小さな送迎バスに荷物を運びこむ。

他の数組の客も乗り込んでいて、残るはオレたちだけのようだ。


 いろいろあった一泊二日だったけれど、天気も崩れず意外と楽しかったのかもしれない。

彼女たちが一緒だと、どんなことでも非日常に塗り変わっていく。


心身ともにグッタリすることもあるけど、それもどこか楽しい思い出になりそうだ。


 なんて一人でかみ締めていると、バスのエンジンをふかす音にまぎれてあどけない声が響いた。


「待ってー!」