『一ノ瀬様ご予約』と書かれたプレートに案内されると、そこには上機嫌な腹黒カップル。

もとい、兄と萌だ。

「ずいぶん遅いですね~」

 すでに兄の片手には湯気が立つお猪口。

にこやかな笑顔で出迎え、今までのお邪魔虫なオレたちのことは水に流してくれたようだ。

「ええ、みんなで卓球を……」

 返すように笑顔で答え、頭をかきながら兄の隣に座る。

「別にこなくてもよかったのに」


 ……え。

ゾクリ、と寒気が一瞬にして背中を走る。

小さな声だったから、目の前に座る彼女にも聞こえていなかったみたいだけど、間違いなく殺気がこもっていた。

「た、たた、匠さん……?」

 引きつった頬をゆっくりぎこちなく向けると、やっぱりそこには笑顔の兄。

「あっはっは~、本気ですよ~」

 そこは『冗談』っていう場面だろ!

なんて言葉は、おそろしくていえないのだった。

「じゃあ、僭越ながらアタシが音頭を!
こほん、にぎやかな旅行とオトメくんの恋路が無事にうまくいきますように……」

 なんじゃそりゃ、と心の中でおもってしまうけれど。

みんなの楽しそうな笑顔をみていると、やっぱり来てよかったと思う。

「か~んぱぁ~いっ!」

 カチーン、と盛大に鳴らしたグラスの音。

 この近辺で採れるという山菜はいろどり豊かで、おひたし、てんぷら、魚に茶碗蒸し、どれもオレの非日常を吹き飛ばすほど美味かった。

「それにしても、オトメくんに彼女ができたとはねぇ」

 熱燗五本目だというのに、顔色一つ変えない兄。

「どんな方なのかしら?」

 自分のことのように嬉しそうにニコニコしている萌に、得意げに笑って見せたのは彼女。

「萌さんもあたしもカワイイけど、瑠璃って子もなかなかのモンよ」

 どこかのエロオヤジのように怪しく笑う。