理想恋愛屋

「ナンパなんてしてんじゃないわよ!」

 フン、と鼻息荒く彼女が言い放つ。

それに便乗して秋さんもオトメくんも、ギャアギャアと煽りはじめるから困ったものだ。

こうなると、オレはある意味、生贄状態。


「さっさと再開するわよ!」

 彼女の強引な催促に、思わず腹のソコから深いため息を吐き出した。

するとすぐ近くで隠しきれていない忍び笑いが聞こえてくる。


「あ、ごめんなさい」

 オレの視線に気づいたのか、明らかに悪びれていない謝罪を口にした。


「笑い事じゃないから……」

 泣きたい気持ちを抑えてがっくしと肩を落とす。

むき出しになってしまった足を動かそうとしたときだ。


「貴方のことが、よっぽど気になるのね」


 楽しそうな少女の声に、条件反射のように声をあげていた。


「……は?」

 もう一度振り向くと、少女はすでにベンチから腰を上げていた。


「すみません、そろそろ屋敷に戻らないと」

 ひらりと髪をなびかせて、そのまま出入り口に向かっていく。


「またお会いしましょう…?」

 すこし悲しそうに微笑んで、すっと部屋を出る。

「ちょ、瑠璃さんっ!?」

 ペタペタと足を音を鳴らして追いかけてみたが、もう廊下にすら姿がなかった。

オレの制止もままならないうちに、煙のように消えてしまったのだ。


「あれ、瑠璃さんは!?」