そんな異様な雰囲気をぶち壊すかのように、オトメくんは楽しそうにかばんを漁り出す。

「そうそう、葵さん!」

 肩からかけていたカバンから、取り出したのは折れ目がところどころにある一通の封筒。

手渡してきたので、ゆっくり中身を取り出すと2枚のチケットがあった。


 チケットに書かれたその文字の意味を理解するのに、しばし時間がかかってしまった。


「……は?」


 だって、そこには……


「温泉……ペア、チケット?」

 ぽつりと呟いたオレの声が事務所に響いた。


 さっきまでツンケンしていた彼女とつまんなそうにしていた秋さんが、同時にすばやくオレの手元を覗き込んでくる。


 すぐに目で確認して、封筒に戻せばよかったんだ。

けれど、時間ってのは戻せないモン。


ニコニコ見つめてくるオトメくんに一番に反応したのは、秋さんだった。

「ねえねえ、アタシにこれちょーだい?」

 秋さんは甘い声音でオトメくんにしなだれかかっている。

おかげでオトメくんの身体は、カチンと硬直した。


「い、いえ…。あの……あお、葵さん、と、一緒に行こう…かと…」

 自称・オレの弟子のオトメくんは、しどろもどろに答えている。

女性恐怖症のはずなんだけど、っていうツッコミは今はしているところではない。


 その心遣いは嬉しいが、いろんな意味でタイミングが悪すぎる。

やっぱり彼は『タイミングが悪い男』なのだ。



 ……―肝心の、もう一人だが。