「葵ちゃーん!」

 軽快に扉が開き、明るいハスキーボイスが事務所に響く。

姿を見なくても、その主を判別できるようになった自分が切ない。


 はぁっとため息を吐くと、余計に疲労感に襲われたのはこの際仕方がなかった。

ただでさえ、姫君がご機嫌ななめだというのに…。

 嬉しそうに登場したのは、相変わらずシンプルだけれど胡散臭そうなドレスを身に纏った秋さん。

アレ以来、こうして度々顔を出す。

「こんなときに秋さんまで…」

 オレの切ない独り言は、しっかり届いてしまったようだ。

「ん?アタシがどうかした?」

 小首をかしげて、ふわふわと揺れる髪を揺らした秋さんに、なんでもない、と答えようとしたのに。

「葵のくせに、いっちょまえに色づいていやがんのよ」

 ずっと背を向けたままの彼女は、真正面に座った秋さんに嫌味たらしく話す。

どうも彼女の言葉にはトゲしか感じられない。


 ……まったく、面倒な姫だ。

そんな風に心の中で呟いた瞬間だった。


「だーれが面倒よ!?」

「勝手に心の声を聞くな!」

 剣幕な表情を一気に緩めて、フンと鼻で笑われた。


「顔にかいてあんのよ、単純ばぁーか」

 さらにオマケの一言。


 ……―こンの小娘がぁぁぁああ!

 怒りに拳が震えていたときだ。


「そんなことより、葵ちゃん。夏休みはアタシと遊ぼ?」

 あえて空気を読んでいない秋さんの言葉に、ガクンと一気に力が抜ける。

秋さんの手にはティーカップがあり、長い指がカップに馴染んでいる。

どうやらいつの間にか、マイカップを持参していたことに今更になって気づいた。