おそらく相当、悲愴感たっぷりの表情をしていたんだと思う。

はあぁぁ、とバカにしたように彼女は大きなため息をついた。


 …だって、そうだろう?


 オレは口にはしなかったけど、がっくしと背中を丸めながら振り向いた。


「あたしをなんだと思ってるわけ!?」

 なんだといわれても、今まで彼女のおかげで散々振り回されてきた。

むしろ、オレがなんなんだと聞きたいくらいだというのに。


「欲しいからって人のモノを奪るなんて、サイテーじゃない」

 気のせいかもしれないが、叱るように睨んでくる彼女がいつもより優しく感じた。


「じゃ、じゃぁ……」

 ぱっと顔をあげると、面白くなさそうに奪い取ったプリント…―もといチケットを返却してきた。

素直に受け取り、やっぱり見舞い違いではないことを実感する。

 こんな状況が重なると、夢でも見ている錯覚を起こす。

こっそり太ももの肉をつねったのは、彼女には秘密だ。


 颯爽とデスクに戻りウキウキとパソコンを立ち上げる。

起動を待つこの時間も、今だけは幸せで満ち溢れていた…。


 しかし、このひと時でさえ彼女は見逃さない。


 オレは次の一言に、恐怖さえ感じたんだ―……。


 くるりと身を翻して、ソファの背もたれに軽く腰掛けた彼女。

口端を意地悪く吊り上げて、クスリと笑いを零した。


「…まあ、葵が『どうしても!』っていうなら、行ってあげてもいいけど?」



 それはまるで、勝ち誇ったように。

そして、絶対的な瞳でオレを捕らえたのだ。