なにがあろうと確立してきた『お姫様』という絶対的なオーラを、彼女はどこかにおいてきてしまったようだ。

どよんと真っ黒いオーラをまとって、肩を落としていたのだ。


 そのあまりの変貌ぶりに、オレも一緒になって体から力が抜けてしまっていた。


「お、おい…大丈夫か……?」

 ふらりふらりと、揺れるような歩き方の彼女に声をかけると、淡い茶色のクセ毛を揺らして、長いまつげを携えた瞳を向けてきた。

 生気を失っていたにもかかわらず、オレの顔を見るなりみるみる怒りに満ち溢れていくのが解った。


 ……―ああ、これから八つ当たりか。


 そんな風に悟ったときだった。

 つかつかと歩み寄って、いつものように彼女が呆れたように見上げてくる。


「っていうか、葵こそ何してんの?」

 直立不動のオレの目の前で、いぶかしげに覗きこんでくる。


「…えぇ!?べ、べつに…その……」

「ふぅん…」

 クルリと背を向けた彼女をみて、なんとか誤魔化せたことに安堵をもらす。

ゆっくり椅子に座ろうとしたときだった。


「葵…。あの、ね……」


 俯いたまま何かを言いたげに口をどもらせる彼女。

みたこともない反応の彼女につられて、オレまでどきどきしてくる。


「な、な、なんだよ……」

 返答すると、すぐ隣までやってきてスーツの裾を少しだけ引っ張る。

Tシャツにデニムのショートパンツというシンプルな服装で、見下ろした視界には彼女の美脚が飛び込んできた。