白い四角のテーブルの上に置かれたコーヒーカップを手に取る。


なみなみと茶色い液体が注がれたそれを、口に運ぶ。



苦い。
だが、これがいい。
そう、この苦さが現実をより現実に近づけてくれる。
高校生の時分、漸近線というやつにやたらと心ひかれたのを思い出す。
そう。あの、限りなくゼロに近づくのに達することのできない、あの切なさにロマン的なものを感じたんだ。
このどうしようもない、じれったさ。
平行線じゃないのに、触れない運命。
それに、ロミオとジュリエット的な悲劇性さえ感じたんだ。



て。

こんなふうに現実逃避してるのは、わけがある。




コーヒーカップをおく乾いた音。


それすらやたらと耳に響くくらい、この部屋は静かだ。


とはいっても、もう三年も過ごしている下宿先なんだけど。




テーブルの上の時計をにらむ。





時刻、十九時三十六分。





携帯を開いて、メールを確認する。


約束したメールに、こう書かれている。




[じゃあ、午後七時にめーちゃんのとこに行くねっ]




普通に待ってるのも、とうに限界だっ。