彼女のコトは、前から知っていた。

自由選択で同じ授業を取っている、芹川幸美(セリカワ ユキミ)。

男子と話しているのを殆ど見た事が無いが、誰かが話を振ると笑顔で答える、女子の中では気さくな奴――――というイメージ。

殆どの女子が、先生に話を振られても答えないのに対し、芹川さんは先生のネタに必ず答えるので、先生達も面白がっていた。




彼女の扇ぐ団扇の風が、俺の顔に届いた。

彼女は自分を扇いでいるだけだったのだが、俺は素敵に勘違いした。

俺はわざわざ芹川さんが俺を扇いでくれてると思い込み、「ありがとう。」と言ったのだ。


芹川さんはフッと微笑み、俺を扇いでくれた。
俺はようやく、自分が勘違いしていた事に気付いた。





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