欲張り

「君は、誰かに言われたの?」

「いいえ、一度も。いつも私だけ」

 女の寂しげな表情を見て、ここに一人で来た理由がわかったような気がした。

 女が指で、グラスの中の氷をクルクルとまわし始めた。俺のグラスの中の氷がカランと動く。

 さっきまでの絶望感を思い出した。この氷と同じように、俺も溶けて消えていくという気持ちと、そう自分が望んでいることを。

 酒を一気に飲み干すと、喉の奥が熱くなるのがわかる。

「もう行くよ」

 女にそう告げ、席を立ったとき、女が俺の腕を掴んだ。

「帰るの?」

 帰る場所なんか俺には、もうない。

「あぁ」嘘をついた。

「一杯、奢るわ。どう?」

「放っておいてくれないか」

「……」

「一人でいたい」

「そう。ごめんなさい」

「すまない」

「そんな時もあるわ」

 女にそう言われて、更なる絶望感が俺を襲った。そんな時はもう、これで最後だ。

 もう、終わるんだ。

「それじゃあ」

 女が手を離した。

「最後にひとつ聞いてもいいかな」

「なに?」

「俺が死にたいと言ったら、君は笑うかい?」