人生の終わりのときに、人間が欲するものは何なのだろう。お金を欲する気持ちはとうに失くしてしまった。食欲も物欲もない。

 しかし、ネオンの明かりに俺の喉が反応した。

 酒だ。酒が欲しい。


 喜びや悲しみなどの心の感情は言葉にしなくても、雰囲気でわかるものだ。

 月明かりを浴びながらグラスを合わせた男女は、愛で溢れているのだろう。カウンター席の端で一人飲んでいる男の横顔は、どこか寂しさを語っているようだ。

 そして、この俺は寂しさと言うより絶望を映し出しているのかもしれない。寂しさという感情の方がまだ、未来がある。

 グラスの中の氷が溶け、水となって消えていく。その様子はまるで、これから先の俺のようだった。

 バーの扉が開き、目をやると女が一人、入ってきた。女は店内を見回し俺の座るカウンター席で目を止めた。

 長い黒髪の隙間から、ピアスが揺れているのが見える。