「何が?」

彼は眉をひそめた。

まっすぐわたしを見る。

「この前、教室に来てた先輩……」

わたしがうつむいたままもごもごとそう話すと、彼の中で何かが繋がったようで、1人大きく頷いた。



「あの人は、兄貴の彼女だ」



その言葉に、はっと顔を上げた。

目が合うと、彼はにんまり笑った。

「あの人が必要だった本を兄貴が持ってたみたいでさ。お前渡しといてくれ、って頼まれただけだよ。あ、兄貴、1人暮らししてて今は実家にいないから」

「そう、なんだ」

なんだか拍子抜けしてしまって、口だけが動いているような感じだった。

「あの手帳買いに行ってたんだよ。あの日は」

そう言うと、彼は照れを隠すように中指で眼鏡を押し上げた。

「うん……」

頬が赤くなるのがわかった。

照れくさくて、顔が上げられなかった。