男は言われるがままに走り続けた。街の灯りが遠くに見えて、街なんてこんなに小さなものかと、くだらなくも無意味に思えた。

 茶畑を過ぎ、工業団地が近づいて来る。 

「あんた、私に何か恨みでもあるの?」 

「・・・・・・」

「何とか言いなさいよ、犯罪者」

「犯罪者って・・・・」

「惚けないでよ、犯罪者じゃないの」

「何を言ってるのか分からない。それに、こんな誰も居ない真っ暗なところに連れてきて」

そう言うとニヤッと笑った。いや、笑ったように見えた。そして、勝ちを確信したのか、両手を後方に上げて「うー」と声を出しながら背伸びをした。

その瞬間、車内が明るくなり男は「ぐっ」と言って小刻みに震えた。

私はもう一度押し当てた。今度は「ぐっ」という声は聞こえなかった。そして、間髪入れずに三度目の高圧電流を男の胸に流した。電池が無くなるまでずっと押し当てて放電させ尽くすと男はもう動かなかった。私は先端が熱くなったスタンガンをしっかりと握って車外へ出ると、車内に落としたものはないか、執拗に確認した。髪の毛も帽子の中に収まっている。薄い肌色の窮屈なゴムの手袋も破れなど無い。

土砂降りだったあの夜が・・・・
これでやっと終わった。