そう思ってしまったら、何とか嘘のアリバイを作らなくてはならない。駅に居た時間は操作出来ないだろうし、何処かへ寄り道したと言っても証人は作れない。考えは行き詰まった。 
 翌日の朝早く奴はアパートのインターホンを鳴らした。 
 
「毎度毎度ゴメンなさいね。それで、一昨日の夜ですが、貴女は何をされてましたか?」

 露骨な質問だった。

 私は、何時頃の電車で駅に着いた事を簡単に説明した。 

「ほう、いつもそんなに遅い帰宅なんですか?」 

 恐らく、その前日も、そしてまた前々日の駅を通った私の時間でも確認したのであろう。その自信満々な口調はそれ以外には考えられない。


「その日は会社の飲み会に参加したものですから」


「ということは、普段はもっと早いと?」


「ええ」 

 浅村は、「なるほど」と理解したような言い方をしながらも手帳にメモしていた。 

「で、駅からここまでは?」


「帰宅したに決まってるじゃありませんか」

「駅からそのまま帰宅したと?」

 私は溜め息をついて見せた。 

「あの夜は大雨だったんですよ。そんな中、帰ると思いますか?」

「では、タクシーか何かでも?」

「そんな勿体ない。小降りになるまで駅のトイレで雨宿りですよ」

「トイレで?どうしてまた?」


「立ち尽くしてるとキツかったから、トイレの便器に座ってました」

「どの程度でしたか?」

「そうですねえ。一時間は過ぎたと思いますよ。中で読んでいた本の区切りが良いところで外を確認してみたから、そんなもんだと思います」

「一時間ですか・・・・」
 浅村は、このやり取りに納得出来ないようで、腕を組むと少しの間考え込んだ。そしておもむろにこう切り出して来た。 

「そう言えば、その日に来てた服はありますか?あれば見てみたいのですが」

「昨夜洗濯して部屋干ししてるんですが、もう乾いてるかも」

 私は、ハンガーから服を外すと浅村の目の前に差し出した。浅村は、触っても良いかと確認すると、服を頭上に広げた。勿論、裏も同様にしっかりと目を通している。私は、その様子を無言で眺めた。