春一番の強風が吹きさぶ中、親から受け継いだウォークマンの音量を上げる。
 イヤホンから聞こえてくるのは平凡な歌詞にギターとドラム、甘ったるい声を張り上げる自分と大して変わらない年の、ボーカルの声。

 今日は日曜日で学校も休みだから、久しぶりにあのビデオ屋にでも行こう、と思いつく。小学一年生来の友人である由里との約束はドタキャンされた。原因はついこないだできた彼氏らしい。一足越された、なんて思いも無くはない。

 大きな交差点を一つ小さな交差点を二つ通り、やたらくねくねした道をすべるように抜ける。今日は曇りのせいかいつもより若干涼しく、触れる風も心地好かった。

 錆びたブレーキ音。店の入り口の横でスタンドを立ててとめる。小さな店で、大きさは棚と棚の間を人がゆずりあわずに通れないくらい。なぜだかいつも古書店のような匂いがして、店員さんが二人に店長らしき人が一人の計三人でやっている、この古びたビデオ屋は私がかれこれ五年ほど通っているお気に入りの店だった。

 まず、手前にある新作コーナーを見る。あまりこだわりはないので目線先にあったビデオを二本、それから裏のDVDコーナーに移動し、一本を手に取るとカゴに入れ、更に奥へと進も
「ハイハイちょっとー。夕子ちゃんちょっとー」
「なんですか」
……うとしたら、店長の朔川に呼び止められた。