記憶に鮮明な、あの瞬間。
泣く私を見て、マサキは今までにないくらいうろたえ、謝ってきた。
LL教室のことも、同じ記憶が私にはある。
あのDVDを見て、私が泣けなかった理由。
今の平和な日本があるのは、昔の人が尊い犠牲を払って日本を守ろうとしてくれたからだ。
そう思ったら、泣くのは間違っている気がした。
私達は、戦争を二度と繰り返してはいけない。
そんなメッセージを受け取り、衝撃を受けたんだ。
この小説の作者は……。
《中学の頃、同級生の女子に告白され、三ヶ月くらい付き合った。
別れる時その子に泣かれたので、女の涙には免疫(めんえき)があるつもりだった。
……自分の過去話とはいえ、自分で書いていて腹の立つ男だなと、つくづく思う。
たかが中学生の男が女のなんたるかを語るな!
免疫って何だよ!
自分へのツッコミは置いておき、本題に戻ろうか……。
「泣いた女の子」の姿を見て戸惑ったのではない。
「Mの泣き顔」に、俺は動揺したのだ。
学校ではしっかり者で通っているMが、こんなささいなことで泣くなんて……。
意外だった。
こんなに弱いなら、これからはもっと、俺が守ってやらなきゃと思った。
もちろん、真っ黒になった卵焼きは全部食べた。
Mに笑ってほしくて。
俺のために苦手な料理をやってくれようとし、泣くほど心を込めて作ってくれたのだから。
残したら天罰が下ると、本気で思った。
翌日、腹を下したことも、彼女には一生秘密にする。》
――…間違いない。
これを書いた作者は、私のよく知る矢野マサキだ……!
マサキが、私と付き合ったことを思い出しながらこれを書いたんだ……!!


