マサキさんがどれだけ彼女のことを想っているのかが、文面からひしひしと伝わってくる。
最初の10ページくらいは、完全に読者目線で読んでいた私も、次第に、既知(きち)感を覚え始めた。
作品内の“M”。
マサキさんの元カノとして、文章に動かされる女の子。
彼女が「私なのでは?」と、ハッキリ疑ってしまったのは、次の内容を読んでからだった。
《最初に言っておく。
Mには、ボケる気などみじんもなかったのだ。
彼女は、砂糖と塩を間違えるというベタなことを普通にやってくれた。
それだけではない。
彼女は、味噌(みそ)を温めるとしょう油に変化する、と、本気で勘違いしていた。
卵焼きを作るべく、ボウルの中でかきまわした生タマゴの中に味噌を入れようとしたM。
彼女のペースに合わせて手伝っていた俺も、さすがに身の危険を感じ、味噌投入を全力で止めた。
できるだけ分かりやすく真実を説明してあげると、不服そうにしながらも、彼女は納得し、味噌を冷蔵庫に収めてくれた。》


