アサミと電話して以来、私は《マサキ》という単語に敏感になっていた。
女子高生二人は、私の視界の右側から現れ、ゆったりした足取りで前に進み、私の左側へ流れていく。
他人の話に聞き耳を立てるのはいやらしい感じがして気が引けるが、今の私はそんなことより、彼女が言った“マサキ”に関する話題の方が気になった。
URLを受け取った女の子が、しんみりした顔でケータイ画面を見つめ、言った。
「わー……。これ、出だしからもう切ないんだけど……」
「まだそこはマシ!
もっと先読んで!
最近で一番泣けた話」
「うん……。ていうか、あんたケータイ小説には興味ないって言ってなかった?
ハマったの、これのせい?」
「そうそう! 読んだら分かるから、とにかく読んで!
書籍化されたんだから、絶対感動するよ」
「だったら、家でゆっくり読むよ。
ここで読んでも、頭に入らなさそう」
そんな会話をしながら、彼女達は私からどんどん離れた場所に歩いていった。
彼女達の姿が見えなくなった時、私はケータイを開いて、ネット検索をしてみた。
検索ワード《マサキ ケータイ小説》
検索ボタンをカチッと。
検索結果、1000件。
意外にたくさん引っかかって驚いた。
彼女達が口にした「マサキ」と、私の元カレ「マサキ」が同一人物だなんて、この時は夢にも思わなかった。
彼女達の話になんとなく興味が湧いて、検索をかけただけのこと。


