マサキは再び、私を抱きしめ、言った。
「ミオのいた生活が、俺にとってどれだけ支えになってたか。
別れる前、つらくなるのは覚悟してたけど、別れてからはなおさら、それを思い知った……。
大切なものは、失ってから気付いても取り返しがつかないんだって。
どんな言葉をならべても、やっぱり俺にはミオが必要だ。
それだけは分かる……」
「マサキ……」
「人として魅力的に生きる……。
いますぐには無理かもしれないけど。
大人になるって、痛みに慣れることであって、鈍感に慣れるのとはちょっと違うと思うんだ。
鈍感になったら、今よりもっと大人になった時、俺は先輩達みたいなことを平気で口走る人間になるかもしれない。
それだけは嫌なんだ。
自分より若い人を見て、あれこれ理由をつけて見下すのは、中学生とかのイジメと同じ。
自分の優越感を満たすために平気で他を下げて、自分を持ち上げようとする愚(おろ)かな行動だ。
人として恥ずかしいことだし、見苦しくもある。
俺も、このままミオがいない人生を送っていたとしたら、日常生活で満たされなくて、優越感に浸りたいあまりに、ズケズケ嫌なことを言って後輩を不愉快にさせる先輩になってたと思う」


