どれだけ歩いたのだろう。
雨でけぶる静かな夜道に、聞き慣れた着信音が聞こえた。
通話ボタンを押すなり、
『やっと出た!
今、ヒマ?』
サクの能天気な声。
こちらの雰囲気とは真逆のにぎやかな雰囲気が、電話越しに響いてきた。
『いま、大学のヤツらとダーツやってんだけど、ミオも来る?
もちろん、そのあとはいつも通り……』
ニヤけたサクの顔が、見なくてもわかる。
私は、言わなくてはいけない。
「サク。今までありがとう。
サクといられて、楽しかった。
本当に、ありがとう」
『おいっ、どうした!?
熱でもあんの?
今、どこなん?』
「栄の歩道歩いてる。
傘、忘れてさ」
きっぱり別れを告げるつもりだったのに、サクのノリにつられて、つい普通に話してしまった。


