ケータイ小説 『肌』 著:マサキ


《運転手を責める気などないけれど、俺は、自分の“当たり前”を失ってしまったことが、とても悲しい。

自分の体が、自分の意思のままに動いてくれないことに苛立つこともあった。

毎日が、つらい。


俺より重症を負った被害者の人々は、もっと苦しい日常生活を強いられているのだろう。

事故を起こした加害者側も、社会的信用を失ったという面で、悲しみを背負うのかもしれない。


Mのいない日常は、涙の味しかしない。

いつか、独りに慣れる時が来るのだろうか。


Mを抱けなくなった俺は、体のことをMに知られ、失望されるのが何よりこわかった。

後遺症のことを正直に告白したとして、Mが、俺以外の男に目移りしたら、と、不安になり、引け目を感じた。

なにより、まっすぐにMを愛せない自分が、つらかった。


日に日に、卑屈になっていく自分。


こんな俺が、彼女を幸せにできるわけがないと思ってしまう。

それなら、一緒に苦労するより、Mだけでも、別の誰かと幸せになってほしかった。

だから、別れを告げた。

いまごろ、Mが幸せになっていますように。

俺との別れを忘れて、心から笑っていますように。》