駅前の道は薄暗く、閉店した商店街が並んでいる。
民家すらなかった。
「ねえねえ、もう帰るの?」
「えっ?」
30代いくかいかないかくらいのチェックシャツを着た男が、ヘラヘラ笑いながら近づいてきた。
「俺も店にいたんだけど、さっきからかわいいコだな~と思って!
帰るなら、これから一緒にどっか行かな~い?」
「もう帰るんで」
目を合わさないように、私は歩を早めた。
かかわり合いたくない。
少し歩いたらにぎやかな場所に出るのに、それを感じさせないほど、ここは静かだった。
私とこの人以外に、誰もいない。
「ちょっとでいいから、ね? ね?」
私の前をふさぎ、男は食い下がってきた。
「あれ? 泣いてたの?」
目ざといな、こいつ。
「すみません、帰るので……」
しつこいな。嫌がってんの気付けよ。邪魔!
そんなこと言ったら、何をされるか分からない。
控えめな言い方でしか断れない時、自分が小心者な女であることが嫌になる。


