いつかの君と握手

「でぇ、どれがおまえの息子だって……ええええええええええっ!?」


お酒のせいなのか、充血した瞳があたしたちに向けられる。
きょろりと動いた瞳が、何故かあたしを捉えた瞬間、じいさんは絶叫した。

数歩後ずさったかと思うと、足がもつれてずってんと転んだ。
そのまま這うようにして後ろに下がる。
しかし、視線はあたしに向けられたままだ。
な、なに? あたしがどうかした?


「どうかしましたか、先生?」


酷く怯えた様子のじいさんに、加賀父が祈を離して訊いた。


「あ、あ、あ……」


わなわなと震えながら、指先であたしを指す。
まさに、『恐怖! 心霊現象―私の出会った幽霊―』的なリアクションである。


「ん? 一体誰を……」


じいさんの指し示す先にいるあたしを見て、加賀父は一瞬だけ、眉をひそめた。
しかしすぐに表情を戻して、じいさんに問う。


「彼女が、どうかしましたか?」

「し、し、し……」

「し?」

「志津子!!」


しずこ?
あたしは美弥緒ですが。


「志津子ぉぉぉぉぉぉ! わしを迎えにきたのかぁぁぁぁ!」


首を傾げた、その一瞬。
さっきまで足元の覚束なかったはずのじいさんが、あたしに向かって猪のごとく突進してきた。
すっかり油断していたあたしにタックル。
吹っ飛ばされる、と思ったのだが、じいさんはあたしをぎゅうーっと抱きしめた。


「ななななななななななな、なんですか!?」

「志津子ぉー。おまえこんな若い姿で現れてぇー。わしだけじじいじゃないかぁー」


酒臭い息をぶはあぶはあと吐きながら、じいさんはあたしを抱きしめたまま、おいおいと泣き始めた。

ぎゃー! なんじゃこの状況はー!


「は、離してください!」

「わしも死んだら若くなるんかー? おまえとおんなじくらいに戻れるんかー?」

「ちょ、先生! 落ち着いてください!」

「志津子ぉぉぉぉぉ!」


耳元で酒浸りの熊が咆哮しているようだ。
ああもう一体何だこれ。


「志津子ぉぉぉぉ」


だから、しずこじゃねえし、あたし。
じいさんとは初対面だし。
否定の言葉を叫びつつ、もがもがと暴れてみるものの、じいさんの腕は一向にあたしを離してくれず。
視界の隅に、唖然とした様子の三津と柚葉さんが見えた。

三津! てめえ助けやがれ。
柚葉さん! マジで頼みます。